こんにちは、AIニュースアプリ Morning AI 開発者の矢野哲平です。この記事では、企業が実際にどのようにAIエージェントを活用しているのか、その具体的な事例について触れます。

AIエージェントとは何かについては、先にAIコーディングエージェントとは?を読んでもらうと位置付けが分かりやすいと思います。タスクを渡せば、ファイル編集やコマンド実行まで自律的に進めてくれるAIのことです。

実は、Claudeを展開するAnthropicが、AIエージェントを会社にどう導入するかというガイド資料を公開しています。この記事では、その資料と私自身の経験を踏まえて、次の3つのポイントを解説します。

  1. Anthropicが公開しているAIエージェントの活用事例(財務・法務・営業・プロダクトマネジメント)
  2. AIエージェントを社内にどう浸透させていくか
  3. どのタスクをAIに任せるかの選定基準

企業はAIエージェントをどう使っているか

Anthropicの社内では、職種の異なる4つのチーム(財務・法務・営業・プロダクトマネジメント)がAIエージェントを使っています。

それぞれ仕事の中身は全然違いますが、共通しているのは「最初は具体的な困りごとから小さく始めて、少しずつ仕組みにしていった」という点です。実際のAI企業がどう業務にAIエージェントを活用しているのか、学びの多い内容なので順番に見ていきましょう。

財務チームの事例

Anthropicの社内には、さまざまなデータを集めた大きな保管庫があります。ここから財務関連の数字を取り出すには、SQLという専用の操作言語を使いこなす必要があり、分析用の画面を1つ作るのにも数週間かかっていたそうです。

設定していた指標のアラートも、「収益が3%減少しました」という数字の通知に留まっていました。なぜ売上が下がったのか、その背景まで把握する仕組みはなく、通知が来たら担当者が生のデータを見て原因を特定するワークフローでした。しかも、その分析ができる人は社内で2〜3人ほどと、属人化していたそうです。

ここでAIエージェントを使ってどう変わったか。まず、データの保管庫にAIをつないで、最新のデータに自然言語で直接質問できるようにしました。そして、よく問い合わせる内容を一つのパッケージとして登録しました。

これによって、これまで一部の人しかできなかった「生データからの原因分析」をAIエージェントに移せたわけです。収益減少のアラートが飛んできたら、そのまま売上減少の原因を分析・説明するところまでAIが担うようになりました。

さらに、財務データを視覚的に確認できるダッシュボードを、エンジニアでない人でもHTMLを使って自分で作れる環境を整えたそうです。資料には、こんなコメントが残されています。

指標が変動した際のアラートには、AIが文脈を読み取って、可能性の高い変動要因を数字に添えて提示するようになりました。会議での議論は、何が起きたかの確認から、次に何をすべきかの戦略会議へと進化しました。

法務チームの事例

法務の仕事も扱う情報が多く、ミスが許されない領域です。Anthropicの法務チームが抱えていた課題も、数十の管轄区域にまたがる規制のモニタリングや、社内コミュニケーション、リーガルチェックなどに多大な時間を奪われている、というものでした。社内の知見やリスクをWikiに保存していたものの、誰も完全には読んでいない状態だったそうです。

そこで法務チームがつくったのが「法務用のプラグイン」です。Anthropicが法的なリスクをどう考えているか、製品公開の際にどんな審査を経るべきか、開発チームにどうアドバイスするか。そうした内容を一つのパッケージとして開発しました。

これによって、何十もの管轄区域の規制情報をすべて読み込んで重要なものを人間が探す手作業から、AIが重要だと判断したものにフラグを立て、そこを重点的に読んで判断する運用へと変わりました。

さらに面白いのが、過去の法務への依頼をすべてAIに分析させて、どういった依頼が最初から人間の判断を必要とするのか、どこでタスクが詰まっているのかを洗い出し、受付体制そのものを再構築した点です。

新しくAIエージェントを導入するとなると、これからどうするかに目が向きがちですが、過去の問い合わせ履歴を分析させて業務改革の材料にするアプローチは、法務に限らず多くの職種に応用できると思います。

営業チームの事例

Anthropicの営業チームが直面していたのは、記録や資料の準備に多くの時間を費やしていた点です。顧客に関する情報や文脈が、Salesforceのような営業ツール、メール、ビデオチャット、Slack、そして営業担当の頭の中に、バラバラに分散していました。

そこで営業チームは、できる営業担当のやり方を5つのパッケージにまとめました。

  • 1日の予定を整理する朝のまとめ
  • 商談前の準備
  • 商談後のフォロー
  • 競合の動向チェック
  • 資料作り

トップ営業のやり方をAIエージェントに模倣させ、他の営業担当も同じように仕事を進められる環境をつくった、というイメージです。たとえば「1日の予定を整理する」タスクでは、その日の電話や注意が必要な案件、夜間に行われた変更などが約2分で整理されるようになったそうです。

商談の準備も、いま行っている商談の裏側で自動的に進むようにしました。商談後のフォローや競合の動向チェックも、裏側でAIエージェントを稼働させて効率化しやすい領域です。特に市場や競合の動向チェックはAIエージェントと相性が良く、営業部門に限らず汎用的に使える内容だと思います。

プロダクトチームの事例

プロダクトマネージャーが抱えていた課題は、業務が多岐にわたり、そのほとんどが会議で行われるため「会議で決まったけれど誰もメモしていない事項」や「営業から得た顧客のニーズ」が製品に反映されず抜け落ちてしまう、というものでした。AI単体では組織の文脈を理解していないため、長期戦略や開発ロードマップのような大きな視点のタスクにも使いにくかったそうです。

これに対しては、プラグインの重ね合わせで対応しました。予定を管理するもの、データを見るもの、営業情報をまとめたもの、製品仕様に関するもの。こうしたパッケージを重ねて使うことで、社内の状況や顧客の生の声をまとめて一つの仕様書に落とし込めるようになりました。

その結果、顧客の不満や利用データに裏付けられた事項が、優先事項としてきちんと仕様書に反映されるようになり、プロダクトマネージャーの役割が情報の収集から意思決定へと明確にシフトしたそうです。これは経営企画や経営戦略の文脈にも応用しやすい使い方だと思います。

大きく始めず、小さく始める

以上の事例で共通していたのは、いきなり大きく変えたのではなく、目の前の困りごとから小さく解決していった点です。

「AIを導入して業務に革命を起こそう」と大きく始めるのではなく、まずは導入してみて効率化できるか検証してみる。こうしたスタートが良いのではないでしょうか。

実際、成功事例よりも失敗事例のほうが多いと思います。その原因は大きく2つに分けられます。

  1. そのタスクがそもそもAIに向いていない場合
  2. AIに向いているけれど、現時点では性能が足りず十分な成果が出ない場合

後者のケースは意外とよくあります。一度試して「使えないな」と思っても、半年後、1年後に改めて試すと「実践レベルで使えるのでは?」と気づくことが結構あります。

たとえば誤字脱字のチェック。AIが出始めた頃に試したときはチェック漏れが頻繁に起こっていましたが、しばらく経って改めて試すと、かなり高い精度で対応できるようになっていました。今では資料やニュースレター、メールの作成など、幅広い場面で誤字脱字チェックにAIを使っています。

AIエージェントを社内にどう浸透させるか

ここからは、自分の会社にAI活用をどう広げていくかという話です。資料では、AIエージェントの使いこなしを階段を登るような5段階で整理していました。いきなり一番上を目指すのではなく、一段ずつ着実にステップアップするイメージです。

  • レベル0「チャットとして使う」: SlackやファイルにつないでAIに質問し、答えをもらう。「このチャンネルで今週決まったことをまとめて」のような使い方。ほとんどの企業が今ここにいると思います。
  • レベル1「何かを作る」: ファイルを読み込んだりツールとつないだりして、資料やメール、表、図などの成果物を作ってもらう。「この案件のフォルダを渡すから提案メモを書いて」という段階。
  • レベル2「スキルにする」: 毎回やる作業を1つのファイルに記録し、いつも同じやり方で実行できるようにする。AIエージェントの仕事を再現可能なスキルとして登録するイメージ。
  • レベル3「スキルをまとめて自動で動かす」: 複数のスキルをまとめて大きなタスクを任せたり、決まった時間に自動で動かしたり。たとえば朝7時半に自律的に動いて、各社員のその日の予定をまとめる、といった使い方。
  • レベル4「部署ごとの専用セットを作る」: 営業・法務・財務・マーケティングなど、各部署で管理者が用意したスキルのセットを全員が使う。

ポイントは、個人のノウハウを共有可能なスキルとしてAIエージェントに登録し、部署全体に浸透させていくことです。先ほどの営業の事例がイメージしやすいと思います。トップ営業が日々行っていることのうち、AIエージェントで再現できるものを抽出してスキルとして登録すれば、その仕事に近いものを部署全体で共有できます。

どのタスクをAIに任せるか

とはいえ、どのタスクをAIに任せ、どのタスクは任せないか。この判断軸は、日々AIに触れていないと培われない部分だと思います。資料では、AIに任せるタスクの選定基準として次の4つが挙げられていました。

  1. 回数が多くて繰り返しの多い作業(週に何十回もやる、パターンが決まっている仕事)
  2. 散らばった情報をまとめる作業(複数の場所から情報を集めてつなぎ合わせている仕事)
  3. 詰まりの原因になっている作業(速くすると、後ろで待っている人みんなが助かる仕事)
  4. 専門性は高いけれど手順は決まっている作業(できる人だけがうまくやれる仕事。仕組みにすればチーム全員が引き継げる)

なお、デスクトップ型のAIエージェントは、セキュリティの関係で企業導入のハードルが高い一面もあります。そもそもChatGPTのようなAIチャットすら会社で使えない、という話も聞きます。ここは個人ではどうにもならず、経営層がどうAIと向き合うかにかかっています。

資料では、この点についてシャドーAIのリスクが指摘されていました。

個人が監視なしにAIツールを採用すると、シャドーAIが発生します。つまり、誰も見ることができず、監査も改善もできないプライベートなワークフローが何十個も乱立することになります。

社員が会社の許可なく、認知できない場所で勝手にAIを使ってしまう状態ですね。なぜそうなるのかに経営層がもっと注意を払う必要があります。セキュリティが心配なら、AIのエンタープライズ版は検討したか。情報漏洩が心配なら、ローカルLLMのような選択肢は検討したか。

その解決策として、会社レベルでAIを一括管理・配布する仕組みが重要だと指摘されています。従業員がバラバラに導入するのではなく、どのチームにどのAIツールを導入し、どのデータへのアクセスを許可するのか。企業全体で戦略的に策定する必要があります。

まとめ

最後に、今回のポイントをまとめます。

  1. AI活用はソフトウェア開発以外の領域にも進んでいる。今回は営業・法務・財務・プロダクトマネジメントの事例を紹介した
  2. 社内に浸透させるコツは、ステップ形式で考えること。AIチャットから始めて、エージェント、自動化へと段階的にステップアップしていく
  3. トップ営業のような成果を上げている人の業務を言語化し、AIエージェントで再現して、部署全体で共有可能なスキルとして運用する

改めて振り返ると、2025年あたりはAIの活躍する場面はプログラミングやソフトウェア開発が中心で、それ以外の領域での活用事例はあまり多くありませんでした。ですが2026年に入り、営業・法務・財務など、開発以外の領域にもAI活用がどんどん広がっています。

なお、今回はClaudeのデスクトップ型AIエージェントをベースに紹介しましたが、似たようなことはOpenAIのCodex CLIでも実現できます。エージェント開発の入り口としては、まずClaude Codeあたりから触ってみるのがおすすめです。