こんにちは、AIニュースアプリ Morning AI 開発者の矢野哲平です。この記事では、AIファーストな企業になる方法について触れます。海外のBoxという企業が発信している内容を参考に話していきます。

2026年に入り、社内でAI専門のチームを立ち上げた、本格的にAI導入を始めた、という話を周りでもよく聞くようになりました。ただ、国内でも海外でも、AI導入はまだ手探りな部分が大きいのが実情です。個人単位なら導入は簡単ですが、企業単位になると一気にハードルが上がります。この記事では次の3点を解説します。

  1. AI導入で陥りやすい罠
  2. 企業をAIファーストへ転換する5つのアクション
  3. 部門別のAI活用ユースケース

Boxとは、そして世界の潮流

今回紹介するのは、海外のBoxという企業が公開している事例です。Boxは法人向けのストレージサービスを提供する企業です。Google Driveのようにデータをアップロードして共有できる機能を、法人向けに提供しているカリフォルニアの企業だとイメージしてください。

BoxはAI導入に積極的で、自社でもAIツールを開発しています。さまざまな企業にAIツールを提供する中でたまった知見を、ブログでよく公開しています。今回はその「AIファーストな企業になる方法」を紹介します。

少し世界の潮流を振り返ります。ChatGPTが日本で公開されたのは2022年11月30日でした。それより前、5月ごろにアメリカとイギリスで公開されています。あれから時間が経ち、私の周りでもAIを使う人が増えました。私の子供も母もAIを使っています。登場当初のインパクトは少し薄れ、そろそろ本格的にAI活用へ舵を切る企業が増えている印象です。

AI活用の難しさは、あるタスクではフィットするが、あるタスクではまだ人間の手が必要、という見極めにあります。個人なら自分の判断だけで完結しますが、企業ではAIを使わない人やネガティブな意見を持つ人の説得も必要で、これがハードルになります。情報やプライバシーの流出リスク、ハルシネーション(AIが誤った回答を出すこと)など、慎重になる理由はよく分かります。

とはいえAIの流れは無視できません。Boxの資料によると、AIを導入した企業は生産性が37%向上したというデータがあります。また、今後2年以内にAIを導入すると予想される企業の割合は60%にも上るとされています。AIを導入している企業が珍しいのではなく、導入していない企業のほうが少数派になる。これは海外のデータですが、日本でも遅かれ早かれこうした時期が来ると思います。

AI導入で陥りやすい4つの罠

「ではAIを導入しよう」となっても、一筋縄ではいきません。Boxブログでは、よくある落とし穴がいくつか紹介されています。

よくあるパターンは、「弊社はAIを導入しました」と言いつつ、実際は法人向けにOpenAIやGeminiのアカウントを開設して従業員が使えるようにしただけ、というケースです。表向きは導入済みでも、使う人は使い、使わない人は使わない。AI活用が個人頼みになり、組織的に活用されません。

資料で挙げられている罠を整理すると、次の4つです。

  1. 既存のワークフローをそのまま自動化してしまう。既存フローをAIで自動化するだけでは足りず、ワークフローを抜本的に再設計するほうが効果的だとされています。私もハッとさせられた点です。
  2. コスト削減への過度な期待。AI導入のゴールをコスト削減に置くのではなく、イノベーションと事業拡大にフォーカスすべきだという指摘です。AIで10人の仕事が5人で回せるようになったとき、5人を解雇して人件費を浮かせるのではなく、浮いた時間を新しいイノベーションや事業拡大に投資するほうが良い、ということです。働く側からしても真っ当な意見で、AI活用で生産性が上がった結果、自分の給料が削られたり職を失うのであれば、誰も積極的にならないですよね。従業員がAIを恐れず自然に導入できる支援体制が会社側にあるか、これが重要だと述べられています。
  3. 個別プロジェクトで終わってしまう。社員個人にAI活用を委ねるのではなく、企業が戦略的にどう活用するかを打ち出す必要があります。これは本当によくあるパターンです。
  4. 変化への抵抗やマネジメントの軽視。アカウントを開設して使える環境を整えても、社員個人にはAIへの抵抗や不安があります。それを企業側が軽視してしまうのが、よく陥る罠です。実際は泥臭い作業の連続で、単にアカウントを開設しただけではAI導入とは言えません。

AIファーストへ転換する5つのステップ

こうした罠を回避しながらAIを浸透させるには、どうすればよいか。資料ではアクションプランとして5つ紹介されています。

  1. リーダーの任命。AI導入の責任者を決め、経営層主導で進める。
  2. AIの利用環境の整備。社員がAIを使える環境を整える。
  3. ガバナンスの確立。AIのデメリットや問題点を全社で把握し、利用時の注意点を会社主導で設定する。個人的にはこの3番目が一番大事だと思います。
  4. 従業員のスキルアップ。社員がAIを活用するための研修や機会を提供する。社内ハッカソンも有用だという話がありました。
  5. 新しいワークフローの開発。既存のシステムにAIを単に上乗せするのではなく、ゼロからAIネイティブなワークフローを開発する。

こうして見ると、5つ目の新しいワークフローの開発が一番難しい。「AIを導入したから新しいワークフローを開発しましょう」と言っても、すぐにうまくいくものではありません。だからこそ4つ目の従業員のスキルアップを通じて、全従業員を巻き込みAIに強い組織へ変革する必要があります。この土壌がなければ、新しいワークフローの開発は難しいでしょう。

社外からAI活用のコンサルティングを招くのも一つの方法ですが、最もインパクトのあるワークフローを開発できるのは、社内の仕事に精通した人間です。長期的に見れば、従業員へのAIトレーニングは不可欠です。資料でも、現場での手動導入を促すこと、AIハッカソンのようなイベントの開催、社内で使えるプロンプトを共有する仕組みが効果的だとされています。

「◯◯部門のAさんが作ったプロンプトがすごく良いらしい」。それをAさんだけの仕様で終わらせず、社内で共有する仕組みを作る。プロンプト作りが得意な人やAIを率先して活用している人の成功体験を、どんどん社内で共有していく。SlackなどのチャットツールにAI専用チャンネルを立ち上げ、知識や成功事例、失敗談を共有していく方法もおすすめです。社内へのAI浸透のステップについてはAIエージェントの活用事例でも、Anthropicの社内事例をもとに詳しく触れています。

部門別のAI活用ユースケース

最後に、資料に記載されている部門別のユースケースを紹介します。

マーケティング部門では、コンテンツの作成・編集・公開までのワークフローをAIで効率化し、生産量を倍増させる戦略です。海外展開している企業なら、多言語ローカライズもAIで簡単に行えます。ただし私の経験を補足すると、AIを信じきらないことも重要です。人間のチェックなしでコンテンツを作成・公開するのは現時点では難しいので、AIは下書きや誤字脱字チェック、意外な視点の提供に使うのがおすすめです。

人事部門では、採用候補者へのサポートや一連の流れをAIで合理化します。社内の就業規則などへの問い合わせ対応にはRAGというアプローチが有効です。AIは一般的な質問には答えられますが、その会社の個別の就業規則は学習していないので答えられません。そこで、AIにその会社の就業規則を渡し、その情報を参照して回答できるようにするのがRAGです。社内人事の効率化にRAGを採用している企業も増えています。

プロダクトエンジニアリング部門は、プログラミング作業をAIで効率化し、開発を支援するものです。このポッドキャストでもたびたび紹介しているので、イメージしやすい領域だと思います。

カスタマーサクセス・サポート部門では、RAGのように社内製品をAIが参照できる環境を整え、問い合わせにすぐ回答できるワークフローを構築します。顧客からの問い合わせはある程度同じ内容が多いものです。問い合わせがあった瞬間にAIが内容を解析して返信の下書きを作り、人間がチェックして問題なければ返信する。こうして顧客対応を高速化できます。電話での問い合わせ対応をAIに任せる構成についてはAIエージェントでコールセンターを自動化するも参考になります。

法務部門では、契約書の分析などをAIで自動化し、対応時間を改善します。もちろん契約書関連をAIに丸投げするのは危険ですが、契約書の分析はAIが得意とする領域です。AIが担当する領域と人間が担当する領域をしっかり分けることで、契約管理業務を効率化できます。

営業部門では、AIで提案書の下書きを作成する事例が紹介されています。個人的には、ZoomのようなオンラインMTGにAIを組み込むと強いと感じています。話した内容を即座に文字起こしし、ミーティング終了後すぐに提案書を作成する。AIで楽に営業するというより、提案の質とスピードを上げる使い方がおすすめです。

部門別に見ると、エンジニアリング部門が一番分かりやすい事例ですが、年々それ以外の活用事例も増えています。マーケティング、人事、カスタマーサポート、営業はAIと相性が良く、その部門で働く人の話を聞くと「ここAI使えそうですね」という気づきがよくあります。

まとめ

  1. 企業がAIを導入するには、まずAIを安心して使える環境整備が重要。利用環境だけでなく、安全に使うためのガバナンスの確立も含まれる
  2. AIで人件費を削るアプローチは罠に陥りやすい。人件費削減を目的とせず、浮いたリソースを事業拡張に投資するのが良い
  3. 経営層はAI導入を社員任せにせず、企業が率先して方向性を打ち出す必要がある

個人の活躍も大事ですが、最終的には会社側が「うちはAIを使っていく」と本腰を入れ、社員が安心して自由にAIを活用できる土壌を整えること。まずはこれが一番大事だと思います。