こんにちは、AIニュースアプリ Morning AI 開発者の矢野哲平です。この記事では、Slackのような業務用チャットツールの中でAIエージェントと一緒に仕事をする、という新しいアプローチについて触れます。
普段、私たちはChatGPTやGeminiと1対1で会話をしています。ですが近年、AIの使い方は変わってきています。Claude CodeやCodex CLIのようにターミナル上で開発エージェントとして動かす使い方や、Google Workspace上でGeminiを呼び出す使い方などです。
今回取り上げるのは、それらとも違ったアプローチです。Slackのような、業務で使うチャットツールの上でAIエージェントを動かすという使い方です。
このトピックを取り上げた理由は、直近でAnthropicとSlackがそれぞれ新しい機能を発表したからです。Anthropicの「Claude Tag」と、Slack公式の「Slack Code」です。
この記事で解説するポイントは、主に次の3つです。
- Anthropicが発表した「Claude Tag」について
- Slackが発表した「Slack Code」について
- チャットツールの中でAIエージェントが動作すると、どのようなことが可能になるのか
業務チャットは必要不可欠。でも、AI向けには最適化されていない
Claude TagやSlack Codeの話に入る前に、この記事で一番お伝えしたいことから話します。
業務で社員や外部の人と連絡を取るために、チャットツールを使っている会社は多いと思います。テック系の会社であればSlack、Google Workspaceを使っている会社であればGoogle Chat、国内で言えばChatworkやLINE WORKSなどです。
メールでやり取りしている会社もあれば、チャットツールを連絡手段のメインにしている会社も多いでしょう。いまや業務を進める上で、チャットツールは必要不可欠な位置づけになっています。
一方で、このチャットツールが「AIを使えるように最適化されているか」といえば、そうではない側面もあります。APIを使って外部からAIモデルを呼び出す機能を提供しているツールやプラグインもありますが、まだまだ改善の余地があると感じている人は多いのではないでしょうか。
たとえば、次のようなエージェントがチャットの中にいたらどうでしょうか。
- チームのチャットのやり取りをすべて背景情報として記憶していて、質問すれば何でも回答してくれるエージェント
- チャット上から仕事を振ることができる、まさに人間のようなメンバーとして振る舞ってくれるエージェント
具体例:AさんとBさんは会話していないのに、AIが原因を提案する
イメージを膨らませるために、具体例を挙げます。
ある開発チームのメンバーがやり取りをするチャットチャンネルがあるとします。そこでAさんが、発生しているバグについて仮説を投稿しました。「現在確認できているこのバグ、もしかするとこれが原因ではないか」という内容です。
一方、同僚のBさんはログのデータをチャンネルに貼りました。
このとき、AさんとBさんは特に何かをやり取りしたわけではありません。バグが起きていることに対して、自分が持っている情報や仮説を、とりあえずチャットに書き込んだだけです。
ここで、このチャットルームの中にAIエージェントが稼働していると、次のようなことが起こります。
Aさんの仮説とBさんの実際のデータを取得して、「今回のバグの原因はこうではないか」と、AIが自発的に対処の提案をしてくれるのです。それこそ人間のように、AさんとBさんの会話に割って入って、自律的に解決策を提示してくれます。
つまり、AIエージェントがまるで人間のようにチャットルームに常駐し、必要があるときには自ら挙手をして発言する、というイメージです。「この仕事、私がやっておきましょうか」「この仮説は、こういうデータがあるので正しい(あるいは間違っている)のではないでしょうか」といった具合です。
Claude Tagとは?
「そんなことが可能なのか」と思う方もいるかもしれません。ですが、先ほどのAさんとBさんのバグのやり取りは、Claudeを開発するAnthropicが、AIの使い方として実際に紹介した内容です。具体的には、「Claude Tag」という新しい機能の文脈で紹介されました。
Claude Tagを一言で説明すると、ClaudeをSlackのチャンネルに追加して、チームメンバーとして作業させることができる機能です。
チャットツールでは、「@矢野さん」「@鈴木さん」のように、アットマークで宛先を付けて通知できますよね。Claude Tagでは、それと同じように「@Claude」でClaudeを呼び出すことができます。
ただ、Claude Tagが従来と違うのは、人間が明示的に呼び出す以外にも、チャット上で「自分が役に立つ」と判断したときに積極的に発言する機能が盛り込まれている点です。まさにAIが自律的に判断して業務を遂行していく、AIエージェントのような振る舞いを、Slackのチャット上で行うことができます。
チャットルームは情報の宝庫
よくよく考えると、チャットルームは情報の宝庫です。たとえばプロジェクトに関するチャットルームであれば、プロジェクトの進捗や現在抱えている問題、次にすべきアクションといった情報が豊富に記載されています。そしてAIは、こうした背景情報をもとに会話をしたり、タスクを遂行したりするのが得意です。
普段、私たちがChatGPTやGeminiとやり取りしているのは、言い換えると「人間とAIが1対1で会話をしているチャットルーム」のようなものです。今回の話は、その1対1のチャットルームの垣根を越えて、複数の人間がやり取りしているチャットルームにAIエージェントを常駐させるという使い方です。
Claude Tagが出る前から、SlackからChatGPTを呼び出すなど、こうした使い方をしている人はいました。Claude Tagは、それをさらに強化しているイメージです。AIエージェントがチャットルームの会話の文脈を理解して、必要に応じて発言をします。
「あえて発言しない」設計
ここまで聞くと、「AIエージェントがチャットルームに常駐して自律的に作業する、といった動きをされると、人間のやり取りが邪魔されてしまうのでは?」と感じる人もいるかもしれません。人間がやり取りしているときに、いきなり会話に割り込んでくるAIエージェントは、体験として悪いですよね。
Claude Tagの面白いところは、AIがあえて発言しないような設計も組み込んでいる点です。Anthropicの説明を引用します。
迷惑なエージェントは、役に立たないエージェントよりもタチが悪い。Claude Tagは本当に必要なときだけ発言するように設計されています。
複数の人間がやり取りするチャットルームにAIエージェントを組み込む。ただし、単に組み込んで人間の発言を阻害するような設計にするのではなく、「発言をしない謙虚さ」も設計として組み込む。このアプローチは面白いと思います。もちろん、人間が明示的に呼び出した場合は、すぐさま対応してくれます。
ちなみにClaude Tagは、現在ベータ版で、ClaudeのTeamプランおよびEnterpriseプランで利用することができます。これらのプランに加入している組織の方で、普段のやり取りにSlackを使っている方は、チェックしてみてはいかがでしょうか。
まだベータ版で使える人も限られているので、一般的にはまだ浸透していません。とはいえ、「チャットルームにAIエージェントが常駐して、スタッフのように振る舞う」という使い方を提供する企業が出てきて、それを導入する企業も出てきた。この流れは、情報を先取りする意味でも押さえておいて損はないと思います。
Slack Codeとは?
Claude Tagが発表されたのは2026年8月の前半です。そして8月の後半には、Slack公式から「Slack Code」というものも発表されました。
Slack CodeもClaude Tagと似たもので、Slack上でAIエージェントを呼び出すことができる機能です。ただし、こちらはSlack公式が提供する機能で、名前にあるとおり、Slack上のチャットからコーディングエージェントを呼び出すことができます。これにより、エンジニアもエンジニアでない人も、チーム全体でチャット上で開発を行うことができるようになります。
このSlack Codeに関するプレスリリースは、Slackの親会社であるSalesforceが案内しています。少し引用します。
例えば、プロダクトマネージャーがチャンネルでバグ報告を発見したとします。エンジニアの対応を待つ代わりに、プロダクトマネージャーはコーディングエージェントに修正案の設計を依頼します。変更はエンジニアに通知し、エンジニアが確認して本番環境に実装します。チケットも会議も待ち時間も一切不要です。
コーディングエージェントそのものについては、AIコーディングエージェントとは?で詳しく解説しています。
2つの機能をまとめると、次のようになります。
|
Claude Tag |
Slack Code |
| 提供元 |
Anthropic |
Slack(Salesforce) |
| 発表時期 |
2026年8月前半 |
2026年8月後半 |
| 何ができるか |
ClaudeをSlackのチャンネルにチームメンバーとして追加 |
Slackのチャットからコーディングエージェントを呼び出す |
| 特徴 |
呼ばれなくても、役に立つと判断したときに自ら発言する |
エンジニアでない人も含め、チーム全体でチャット上から開発できる |
| 利用条件 |
ベータ版。ClaudeのTeam / Enterpriseプラン |
Slack公式機能 |
運用ルールは「AIの外側」で人間が決める
チャットルーム上にAIエージェントを常駐させるというのは新しい取り組みなので、運用方法はまだ定まっていない部分が多いです。
たとえばSlack Codeでは、チャットルームに在籍するエンジニアもエンジニアでない人も、コーディングエージェントを呼び出して開発ができると説明しました。でもこれは、運用方法をしっかり決めておかないと、開発環境がむちゃくちゃになりますよね。誰でも機能の追加や削除ができると、現場が混乱するのは想像できます。
なので、こうしたチャットルームの外での運用ルールは、しっかり決めておく方が良いと思います。これはチャットルームに限らず、会社でAIを運用していくには、AIの外側で人間がしっかりルールを決めていく。これも見逃せないポイントです。
マルチプレイヤーエージェント:人間とAIの混合チーム
こうしたチャットルーム上でAIエージェントを動かすアプローチを、Anthropicは「マルチプレイヤーエージェント」と名付けています。
AIとの仕事の進め方は、次のように変化してきました。
| 段階 |
かたち |
例 |
| これまで |
AIと人間が1対1の閉じたチャットルームで会話する |
ChatGPTやGeminiとの普段のやり取り |
| そこから |
一人の人間が複数のAIエージェントを従えて業務を進める |
Claude CodeやCodexを使った開発 |
| これから |
複数の人間と複数のエージェントによる混合チームで仕事を進める |
Claude Tag、Slack Code |
一人の人間が複数のエージェントを従える段階については、AIエージェントチームとは?でも触れています。そこからさらに踏み込んで、複数の人間と複数のエージェントによる混合チームを構築して仕事を進める、そんな選択肢も取れるようになっている、というのが今回の話です。
Anthropicは次のように説明しています。
Claude Tagのようなツールの登場により、状況は変わりつつあります。今では人間とエージェントが同じワークスペースで協力をして、目標達成のために連携して作業を行うことができます。人間のチームが戦略を立てて、AIエージェントのチームが作業を実行する形へ変化しています。
開発以外の業務にも応用できる
Slack CodeもClaude Tagも「チャット上でプログラミングを行う」というイメージを持ちますが、実はコーディングエージェントは通常の業務にも転用することができます。つまり、これらのツールはエンジニアやソフトウェア開発だけのユーザーを対象としているのではなく、ユーザーのアイデア次第で他の業務にも応用が効くわけです。
たとえば、Slackの最高製品責任者であるジェイミー・デラング氏は、次のようにSlackとClaudeの組み合わせを使っているそうです。
- 月曜日の朝、AIエージェントが準備したブリーフィングから仕事を始める。 直近の状況をまとめたブリーフィングをAIエージェントが自動で作成し、チャットで共有してくれている
- プロジェクトの動向レポートや、その日の会議の事前資料も、AIエージェントが用意してチャットで共有してくれる
- Slackのやり取りのアクションをトリガーとして設定する。 チャンネル上の会話に付けた絵文字のリアクションに応じてAIエージェントを動かすことで、ツールを行き来せずにチャットルーム上だけでエージェントを動かせるようにしている
このように、開発の文脈以外でも、日常業務でAIエージェントを動かすことで業務を円滑に進めることができます。そしてその業務を進めていく場所は、従来の閉じた1対1のチャットではなく、Slackのような社内に開かれた場所でやると、もっといいのではないか。これが今回お伝えしたいことです。AIが業務に溶け込む組織のかたちについては、アンビエントAIとは?も合わせて読むと理解が深まると思います。
現在チャットツールを使ってやり取りをしている会社が、いきなりClaude TagやSlack CodeのようなAIエージェントを常駐させて、マルチプレイヤーエージェントのような使い方に切り替えるのは、なかなか難しいことだと思います。ですが、来年、もしくは今年の後半に、このアプローチの有用性が浸透していけば「うちも導入してみようか」という選択肢を取るのも面白いと思います。
余談:タスク管理アプリとAIエージェントを組み合わせる
チャットツールにAIエージェントを組み合わせる話をしましたが、その他のツールでAIエージェントを組み合わせるのも面白いです。
私が実際にやっているのは、タスク管理アプリにAIエージェントを連携させる使い方です。具体的には、Todoistというタスク管理アプリのAPIを使って、タスク管理アプリからAIエージェントにメッセージを送ったり、逆にAIエージェントからのメッセージを受信したりする環境を構築しています。
タスク管理アプリにはカンバンボードのようなものがありますが、「このタスクをこのボードに置いたら、AIエージェントにはこう動いてもらう」といった設定をしています。不具合や問題が起きたら、AIエージェントの側から私にタスクを振ってもらう、という使い方もできます。
これを構築すると何が嬉しいのかというと、スマホ一つで業務を進められる環境が作れることです。普段の仕事はパソコンを開いて進めることが多いですが、スマホ一つで完結できる環境を構築しておくと、かなり仕事が進めやすくなります。信号の待ち時間のような少し空いた時間にタスク管理アプリを開いて仕事の進捗を確認し、場合によってはエージェントに仕事を振る、といった使い方が可能です。AIで自分の仕事道具を作る話は、自分の仕事道具はAIで自作するでも紹介しています。
まとめ
- Claude TagやSlack Codeは、チャットルームの中にAIエージェントが常駐するようなツールです。
- Claude Tagでは、人間が呼び出す以外にも、AIエージェントが自発的に会話を読み取り、タスクを遂行することが可能です。「本当に必要なときだけ発言する」設計も組み込まれています。
- チャット上からAIエージェントを操作する仕組み自体は、以前から個別に実装している人はいました。ですが、AnthropicやSlackのような会社が機能として提供し始めたのは、大きな動きではないでしょうか。
複数の人間と複数のAIエージェントが同じチャットルームで働く「マルチプレイヤーエージェント」。まだ始まったばかりのアプローチですが、Slackを使っている方は、ぜひ動向をチェックしてみてください。